シーイーシーが支援する自動車業界の先進事例を基に、「PoC止まり」を解消する、成功のためのポイントを解説【後編】―ビッグデータ基盤構築サービス

シーイーシーが支援する自動車業界の先進事例を基に、「PoC止まり」を解消する、成功のためのポイントを解説【後編】―ビッグデータ基盤構築サービス

本コラム<後編>では<前編>に続き、長年にわたってシーイーシーが支援し、先進的なビッグデータ活用を推進する自動車業界での取り組み事例の進め方と、よくぶつかる課題「PoC止まり」や、その解決手法、シーイーシーのAWSビッグデータ基盤構築サービスの事例についても解説します。

これからビッグデータ活用を検討する製造業の企業様はもちろん、すでに推進中の企業様にも、参考にしていただけたら幸いです。

目次

03 ビッグデータを活用する際の課題と解決手法~「PoC止まり」を解消するために注意すべきポイントとは?

ビッグデータ活用プロジェクトの進め方と注意すべきポイント

これまでご説明してきたような目的意識を持ち、ビッグデータ活用を推進する大手自動車メーカーA社ですが、その道のりは決して平たんなものではありませんでした。ここからはシーイーシーが支援した事例を紐解き、製造業企業がビッグデータを活用するにあたっての難しさと、その解決手法を解説します。

そして、データ活用やDX推進時に、巷でよく言われる「“PoC止まり”はなぜ起きる?」「どうすれば回避できる?」のポイントも、お伝えします。

ビッグデータ活用プロジェクトの進め方と注意すべきポイント

Phase 1 車両ビッグデータ価値確認

“車両ビッグデータ(CANデータ)を活用することによる価値”があることを確認

本プロジェクトは、車両ビッグデータの価値確認からスタートしました。

  • この段階では、まず大前提として「車両ビッグデータを活用することによる価値」があることを社内で認識。
  • 将来的な活用はこれからの検討として、「収集できるデータは可能な限り集積しておく」という方針が打ち出されました。
  • そして、手運用でいくつかの項目データを抽出し分析。ビジネス価値を確認しました。

その中でいくつかの課題が見つかり、「収集したデータをいきなり実運用に適用することは難しい」ことが判明しました。

主な課題点と、その対策は以下の通りです。

課題対策
1生データのままでは活用しにくい車両開発チーム/ビッグデータ蓄積チームへフィードバック
2データ抽出に手間・時間がかかる①データ提供ルール見直し
②データ活用者(R&D側)で、抽出可能な
 仕組み(API)を提供
3データの開示ルール・範囲が不明確社内の法規制・リスク専門対策チームで議論
4各種情報が紐づいておらず、活用しにくい車両ビッグデータ活用のための全体IT検討チームで議論
主な課題と対策

中でも、最大の課題は2の「データ抽出に手間・時間がかかる」ことでした。

「品質改善」「商品性向上」など、品質不良がお客様の“安全”に直結する可能性のある部分は、改善までのスピード感が非常に重要です。そのために一刻も早くデータを入手、分析したいとのリクエストに対し、現実的には社内の承認プロセスが複雑であること、システム操作に専門家の人手を必要とすることなどが原因で多くの日数を要していることが、大きな障壁でした。

そのため、データ利用部門(車両開発R&D)側から「データの自動抽出が可能な仕組み(API)を構築して、その課題解決が可能かどうかを見極めたい」とのニーズが挙がりました。

Phase 2 システム試作およびPoC実施

  • 車両ビッグデータ(CANデータ)を活用することで従来業務よりもスピードアップするかを確認
  • 本格導入時のデータ抽出(レスポンス)および抽出結果(工数)における課題を抽出

こうした流れを受けてPhase 2として、APIを用いたデータ抽出システムを試作してのPoCを実施することとなりました。

  • 前述の課題を踏まえ、データ利用部門(車両開発R&D)から、解決のためのシステム試作要件が出されました。
  • 試作要件を基に、開発(PoC)の予算および要件が確定しました。

シーイーシーはこのタイミングから本プロジェクトに参画し、PoCの要件の確定および、試作システムの開発を担当しました。

試作システムの開発図

<POINT>
この段階でのポイントは、「今回の要求内容は、R&D内試行活動から出てきた課題に対し、実現可能であるかどうかの評価・確認を目的としており、社内本格活用のための仕組みの構築という要求ではない」。そして、「本要求をベースとして、費用対効果を検討しながら実際に構築する仕組みの仕様検討を行う」という、PoCの定義と目的を明確にし、社内でコンセンサスを得ておくことです。

そのため、本プロジェクトはいきなり社内本格活用ではなく、

  • 課題が技術的に解決できるか?
  • 技術的に解決できたとして、解決についての費用対効果は?

を、まずはPoCにて確認する進め方としています。

Phase 3 本格開発・特定部署導入

Phase 3として、システムの本格開発を開始。特定部署での運用も実施されました。

  • 抽出した課題に対応するアーキテクチャを実装した本格的なシステム開発を実施
  • 特定部署に導入、評価

<POINT>
PoCにおいては特に、費用対効果が重要です。前年の企画段階ではシステム開発を回避して小さく始めて成果を出す、そしてPoCにおいてはあくまでも「費用対効果」の検証を目的として、システム開発もスモールスタートすることが、ビッグデータ活用をPoC止まりにせず、継続して推進するためのポイントです。

そして、PoC段階でのもう一つの大きな障壁が、「収集されるデータ形式の不揃い問題」の解決でした。

本格開発にあたり、お客様とシーイーシーが協働で、「要件定義書」を作成。 データ抽出のための機能に加えて、抽出されるデータについて、利用部門の目線(使い勝手)から逆算して、

  • データ加工・整形 ・ノイズデータの除去 ・複数データを掛け合わせやすくするためのキー情報やタグの類を付加する

といった、データエンジニアリング要件を取りまとめました。
また、社内ネットワーク状況と帯域的な制約を考慮して、

  • 一回あたりのデータ抽出量に制限を設ける

などの付帯要件も、定義しました。

<POINT>
「システム開発の目的は作ることではなく、技術的な解決可否と、費用対効果を明確にすることである」を念頭に置き、要件を明確に定義すればするほど、アーキテクチャや品質目標、実装の工数・工期・料金がスリム・最適化されていきます。要件の明確化は、データ利用部門と情シス部門、そしてベンダーが一体となり、お互いを理解して進めていくことがポイントです。

ここまでのシステム試作およびPoCで、「ビッグデータ活用」は「十分なビジネス価値をもたらす」との手ごたえを得ることができました。そこでA社は、この試みをR&D関連の全部門へ、全社展開することを決定しました。

Phase 4 R&D全部門へ全社展開

そしてPhase 4。R&D関連の全部門を対象とした、ビッグデータ活用の全社展開がスタートしました。

この時点で実は、各R&D部門がそれぞれ独立して類似の車両ビッグデータ抽出ツール・仕組みを構築しており、全社で見ると乱立している状況でした。これまでの取り組みで確かなビジネス価値が確認され、さらに非機能面における満足度も高いことから、本システムをベースとした全社展開が決定。その上で、改めて全社における車両ビッグデータ活用システムのコンセプトを定義しました。

<その後の展開>

●海外拠点への展開

海外各地域ならではの車両仕様・データレイク仕様に対するシステム微修正を実施。
取り扱いデータ量が国内よりはるかに多いため、性能改善に対応。
個人情報など地域ごとの法規制への対応も実施。

●改善開発の実施

本システムがR&D全部門に普及した結果、システムの使い勝手向上や、より深いデータ分析への要望などが挙がり、そのうちシステム改修が必要な開発に対応。

<POINT>
システム運用開始後も全社的な視座での継続した見直しが必要

  • 従来存在したビッグデータ分析システムの周辺に乱立する各部門のシステム統合を進め、無駄をなくす。
  • 肥大化するデータ量に対応するため、クラウド利用料の抑制ニーズが高まり、アーキテクチャ見直しを継続する必要がある。

この段階で全社横断のビッグデータチームが社内に立ち上り、全社としての取り組みとなりました。 シーイーシーは継続して、本プロジェクトを支援しています。


ユースケースまとめ:ビッグデータ活用プロジェクトを成功させるために必要なこと

ビッグデータ活用プロジェクトを「PoC止まり」で終わらせないためには、データ活用を進めていくための土台として、社内環境やマインドセット(組織や制度も含めて)を整えることが大切です。

  • 環境:データは社内における所有権などの関係で、「門外不出」になりがち。部門を横断した取り組みがしやすい組織や制度の整備が欠かせません。
  • マインドセット:失敗を恐れず何度も試し、学びを活かして方向修正していく、アジャイル的意識を組織全体で持つことも重要です。データ活用は前例のない取り組み。「まずはやってみよう」の精神で小さくPDCAを回し、小さな成功体験を積み上げていくことが成功のコツです。
  • 協働:ユーザ部門と情報システム部門、そして外部ベンダーの「協働」も重要です。ユーザ部門はデジタル知識・スキルを、情シス・ベンダーはビジネス知識・スキルを知ること。知るためにお互いに歩み寄るイメージです。下図でいうと、赤マルと赤マルが交わるゾーンに立ち位置をとり、対岸の知識・スキルに対し受け身の姿勢ではなく、相互理解するための行動をとり、データ活用の課題解決策を模索することが大切です。

データ活用の本来目的とは、「業務の効率化」や「提供価値の向上」。さらに細かくは「原価低減」「品質向上」「商品性向上」などがあります。デジタル人材(情シスやベンダー)は、データ活用すること自体が目的ではなく、あくまで手段であることを認識して、目的の理解、目的達成への課題点抽出や解決策を、ユーザ部門と一緒に考える姿勢が求められます。

04 製造業企業のビッグデータ活用を支援~シーイーシーのAWSビッグデータ基盤構築サービス

ビッグデータ基盤構築サービス 概要

シーイーシーが提供する本サービスは、自動車や情報通信機器から得られるデータのアップロード先として、AWSを活用。AWSクラウド環境へのデータ収集・蓄積機能の構築および、BIツールなどを含めた分析基盤の構築を支援します。企画段階のPoCから構築保守運用までのトータルサポートもしくは、各機能の部分開発も受託可能です。

シーイーシー ビッグデータ基盤構築サービス概要
シーイーシー ビッグデータ基盤構築サービス概要

ビッグデータ基盤構築サービスの強み

シーイーシーが長年の支援実績で培った知見およびノウハウを活かし、最短約1か月スピード構築を実現。最適なアーキテクチャ検討により、AWSクラウドコスト低減にも貢献。さらに、現場ニーズにお応えする幅広いデータ処理関連の開発対応力を提供します。

シーイーシー ビッグデータ基盤構築サービスの強み
シーイーシー ビッグデータ基盤構築サービスの強み

ビッグデータ基盤構築サービス活用事例

本サービスの、活用事例の一部をご紹介します。

①データ収集  車両データの収集・蓄積環境の構築

  • 通信機搭載車両からアップロードされる車両の状態や走行状況に関するデータの蓄積機能の新規開発。(日次でテラバイト~ペタバイトサイズのデータを蓄積する機能の開発)
  • また、環境構築後のデータ収集・蓄積機能全般の性能/保守性改善対応。

②コスト削減 処理最適化によるAWS利用料低減

  • 車両の全データをフォーマット成形して蓄積処理するシステム。
  • 車両の自然増に伴い日次処理の時間が24時間を超える事象が発生。
  • EMRサーバのスペックアップとサーバ台数増で対応したため増大していたAWS利用料を削減した事例。
  • 処理の分散設計見直しとアプリケーションの再構築によってコストを大幅に低減。

③データ活用 時系列データの永続蓄積・分析・可視化

  • コネクティッドカーの車両データを分析、車両状態をグラフ画像で確認する仕組みを要件定義後、3ケ月で構築した事例。
  • 基幹システムとの接続があるため、リプレ-スできない既存のオンプレミスサーバーが老朽化。
  • 処理性能不足にAWS活用で対応し、PoCの早期開始を実現。

ここに掲載した事例以外にも、豊富な実績があります。
詳しくはお問い合わせください。

おわりに

いかがでしょうか。本コラムでは、長年にわたって当社が支援し、先進的なビッグデータ活用を推進する自動車業界での事例を基に、プロジェクトを推進する上でよくぶつかる課題「PoC止まり」や、その解決手法について解説しました。

製造業DX・ビッグデータ活用サクセスガイド

シーイーシーは製造業でのビッグデータの活用について、豊富な実績に基づくサービスを提供し、企画段階から保守運用までトータルに支援します。

ぜひお気軽に、お問い合わせください。

>AWSビッグデータ基盤構築サービス
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