シーイーシーが支援する自動車業界の先進事例を基に、「PoC止まり」を解消する、成功のためのポイントを解説【前編】―ビッグデータ基盤構築サービス
「インダストリー4.0」「スマートファクトリー」など、製造業の進化に必要とされるビッグデータ活用。しかし、その重要性が語られるようになって久しい現在でも、製造業ビジネスにおけるその具体的な活用は、企業によって大きな差があります。
そこで本コラムでは、長年にわたってシーイーシーが支援し、先進的なビッグデータ活用を推進する自動車業界を例に挙げ、その目的と効果、活用シーンごとのメリットについて、詳しく解説します。また、合わせてビッグデータ活用を進める上でよくぶつかる課題「PoC止まり」や、その解決手法についても解説します。
これからビッグデータ活用を検討する製造業の企業様はもちろん、すでに推進中の企業様にも、参考にしていただけたら幸いです。
01 ビッグデータ活用が製造業にもたらすメリット
ビッグデータとは?
そもそも「ビッグデータ」とは何でしょうか?総務省が公表する情報通信白書では、以下のようにビッグデータを定義しています。
デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサーなどIoT関連機器の小型化・低コスト化によるIoTの進展により、スマートフォンなどを通じた位置情報や行動履歴、インターネットやテレビでの視聴・消費行動などに関する情報、また小型化したセンサーなどから得られる膨大なデータ
出典:総務省「平成29年版 情報通信白書」
要約すれば、ビッグデータとは「デジタル技術の普及に伴い、扱えるようになった巨大データ群」のこと。「悉皆に近い大規模性」「非構造化データを含む」「リアルタイムのデータを含む」といった特徴があると言われています。具体的に、どのような情報の集合体なのかについては、下記をご参照ください。
ビッグデータの種類
データの種別 | データ生成の主体 | データの概要 |
---|---|---|
オープンデータ | 政府 | 政府や地方公共団体が保有する、オープン化が推進されている公共情報 |
ノウハウを構造化したデータ | 企業 | 農業やインフラ管理からビジネスなどにまつわる事業者が保有する産業データ |
M2Mデータ | 企業 | 機器間の通信(M2M)により出力された産業データ |
パーソナルデータ | 個人 | 個人の属性・行動・購買にまつわる情報、および特定の個人を識別できないよう加工された人流・商品情報などのデータ |
ビッグデータが注目される背景
ビッグデータが注目される背景には、インターネット、デバイスをはじめとするITの急速な発展と、それに伴う大規模データの収集および分析の容易化があります。
かつてビジネスに活用できたのは、顧客・業務にまつわる情報など、企業が管理する構造化されたデータのみ。ソーシャルネットワークやWebアプリケーションなどに散在する「多種多様かつ、構造化されていないデータ」を収集、解析するには、膨大な時間とコストがかかっていました。
しかし近年ではテクノロジーの進化に伴い、構造化されていない膨大なデータをスピーディに収集し、低コストで蓄積、分析可能なさまざまな環境やツール、サービスが登場。その解析結果から新たな傾向や規則性を発見できるようになりました。加えてSNSの普及により流通データ量が増加。さらに国や自治体も、官民データを誰でも利用可能な「オープンデータ」として公開し始めたことも、ビッグデータ活用への後押しとなっています。
製造業でのビッグデータ活用効果とは?
競争が激化する世界の中、日本の製造業企業が特に注目するのは、ビッグデータ解析によってマーケティング力とグローバル戦略力を高めることです。
他の業界同様、WebサイトへのアクセスログやSNSなどでユーザーの嗜好を分析、商品企画へ結び付けようとする動きに加えて、特に製造業がグローバル市場での競争を勝ち抜くために強化すべきポイントは、「新製品開発力」と「製造現場での改善力」の2点となります。
- 「新製品開発力」の向上とは、革新的な商品企画力や開発プロセス効率化など、新製品機能の向上および新サービス付加価値創出力の強化により、市場競争力を高める取り組みです。
- 「製造現場での改善力」の向上とは、高品質、短納期、コスト削減、サービス改善など、日本のものづくりで基本かつ重視すべき現場の改善を、高サイクルで実現するための取り組みです。
ビッグデータ利活用のイメージ
製造業の企業がビッグデータを活用することは、より安定した製品を生み出すための品質や生産性、品質管理の向上などに直結します。
さらには顧客や市場におけるトレンドを把握したり、経営における意思決定や課題解決までの時間短縮によって変化への対応スピードを高めるなど、幅広い効果を生み出します。
自動車業界におけるビッグデータ活用事例
製造業の中でも、「コネクティッドカー」「MaaS(Mobility as a Service)」など、大きな変化に直面する自動車産業では、早くからビッグデータを活用した新たな取り組みを推進してきました。ここでは海外・国内メーカーの主だった事例を、ご紹介します。
メルセデス・ベンツ
メルセデス・ベンツはビッグデータの活用によって持続的な品質改善を実行。顧客満足度の向上を目指しています。
具体的には「製造現場」「車両」「サポート(サービス)」の3点で収集されるデータを用いて、問題および欠陥ポイントの発見早期化に注力。収集データから欠陥につながりそうな部品、素材を早期に発見し、改善を実施することで、リコールなど偶発的な対応コスト増加を抑止するとともに、安全性と品質の向上による顧客満足度の向上に取り組んでいます。
フォード
フォードは「One Ford」という競争戦略を掲げ、「One Data Ford」というデータ分析プラットフォームを構築しました。これはグローバルに点在するさまざまなデータを、統合的かつ部門横断的に活用するための基盤です。
各製造部品について、「どの工場で、いつ、誰により製造されたか」の詳細情報をトレース可能となることで、問題発生時の原因究明および解決スピードを大きく向上。万一リコールが発生した際も対象を特定できることで偶発的なコスト抑制といったリスクマネジメント強化につながるほか、顧客からのフィードバックをタイムリーに製造へ反映することによる品質向上への貢献などで、成果を上げています。
ボルボ
ボルボは早くからコネクティッドカー化を推進し、2019年10月には「つながる」バス、トラック、建設機械の世界販売台数が100万台を突破しました。
ボルボの顧客を対象として、すべてのデジタルおよびコネクティッドサービスを集約する「ボルボコネクト」システムにより、各車両から収集したビッグデータで、アップタイム向上、排出ガスおよび騒音の低減、運行安全性の向上に取り組んでいます。さらに、部品の摩耗を予測、定期点検予約やスペア部品注文を前もって行えるなどのサービス提供を推進しています。
Honda
ナビゲーションシステム技術で世界をリードしてきたHondaは、2017年12月から、「Hondaドライブデータサービス」としてデータを活用した情報分析サービスを提供。クルマにかかわるさまざまな情報を、ドライバーの利便性向上のほか、交通インフラ、まちづくりなどにも活用しています。
走行ルート、急ブレーキ回数、道路の段差からなるクルマの揺れなど、クルマから取得するさまざまなデータを、都市計画や交通安全、渋滞解消、防災・減災などに活用しています。
トヨタ
トヨタ自動車は、コネクティッドカーから得られたビッグデータに基づき、ペダルの踏み間違いによる異常なアクセル操作を特定、加速抑制を行う「急アクセル時加速抑制機能」を開発。新型車から順次導入すると共に、既販売車種向けの後付け踏み間違い時加速抑制システムを同時期に商品化すると発表しました。
トヨタでは、導入済みのICS(インテリジェントクリアランスソナー)に、新たな機能を組み合わせることで、ペダル踏み間違い事故をさらに一層削減できると予測しています。また、この機能の考え方は他の自動車メーカーも含め、幅広く共有していく計画です。
02 シーイーシーが支援した自動車業界ビッグデータ活用ユースケース
車載データを車両企画開発R&Dに活かす、品質向上・コスト削減の取り組み
ここからは、さらに具体的な実例として、シーイーシーが支援に関わった自動車業界でのビッグデータ解析ユースケースを解説します。
自動車におけるビッグデータ活用の全体像
大手自動車メーカーA社では、ビッグデータを活用して新たな付加価値の向上を目指す、コネクティッドサービスの開発を推進しています。
その期待効果は、車体の設計および品質管理向上から、故障・整備の予知(予防保全)、車両状態の遠隔診断とサポートサービスの開発、さらには画像データやAIを用いたドライバーへのアシストなど、広範囲におよびます。
ちなみに、車両から得られるビッグデータには、以下があります。
車両から得られるビッグデータ:
「位置情報」 や、車に搭載された各種コンピューターが発する「状態情報:CANデータ(Controller Area Network) 」
さらには、周辺状況をセンシングした 「画像データ」 や 「LiDAR」 データ
コネクティッドサービスの今後への期待 -ビッグデータを活用して新たな付加価値を向上
- 社内の設計や品質管理部署に走行データをフィードバックし市場不具合の早期発見、 早期対応を促進
- ビッグデータから、個々の車の故障や整備の必要性を予知し、販売店への入庫を促進
- 車の警告灯が点灯時に車両データを遠隔診断、適切なサポートを行うサービスを展開
- 車載カメラの画像を収集、車線ごとの混雑状況や障害物の有無を含むダイナミックマップを生成
- ドライバーを充分に理解した人工知能のエージェントが安全で快適なドライブをサポート
上図の左上、「社内(グループ内)での仕事の変革」としては、以下が挙げられます。
- 開発・設計:実際の使われ方を基にした設計、不具合の早期発見と対応
- 機能の拡張:自動運転・運転アシスト
- ディーラー店舗への販売支援:使われ方に基づくリコメンド
- メンテナンス:故障診断・予知
この際、車載データは専用の「車両データクラウド」に集約。データ分析にあたってはプライバシーに配慮し、匿名化や個人情報のフィルタリングなどを実施する必要があります。
そして、それらのデータが公共のクラウドと連携し、社外(グループ外)でも活用されます。
- テレマサービス:運転アドバイス、リモート機能、緊急通報など
- スマートフォン連携:音楽やSNSなど
- 保険・金融:運転実績に基づくパーソナライズ保険、リース査定など
- MaaS(Mobility as a Service):交通情報、交通管制、カーシェアリング、マルチモーダルなど
これらの中で、今回は上図左側の「社内での活用による仕事の変革」にフォーカスします。
大手自動車メーカーA社では、車両から得られる「位置情報」と「CANデータ」を、商品企画開発R&Dに活用することを目指しました。
その対象と主な期待効果は、以下の4項目です。
- ①設計見直し
-
従来の経験則に頼った開発から市場での「使われ方」データに基づく開発へと軸足を移すことで、顧客満足の向上と共に、製造原価の低減を目指す。
- ②品質改善
-
自動車の重大故障を引き起こす、部品の消耗・劣化をデータから予兆検知して交換をうながす。また、本来交換する必要のない正常な部品の交換を防止することでコストを下げる。
- ③車の性能向上
-
コネクティッドカーから得られたビッグデータを利用して、危険運転の操作を特定。
事故の低減を図る設定に変更するといった車の性能向上につなげる。 - ④仕様装備見直し
-
販売中の各車両の「使われ方」データから、装備仕様の中であまり使われていないものを分析。標準仕様の見直しを行うことで、原価コストの削減を目指す。
前編まとめ
いかがでしょうか。<前編>では、長年にわたって当社が支援し、先進的なビッグデータ活用を推進する自動車業界での効果と、活用事例をご紹介しました。続く<後編>では、より具体的な支援事例の進め方と、PoC止まりを解消するポイントについて、さらにシーイーシーのAWSビッグデータ支援サービス事例もご紹介します。
シーイーシーは製造業でのビッグデータの活用について、豊富な実績に基づくサービスを提供し、企画段階から保守運用までトータルに支援します。
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